『ゾンビ』(原題 Dawn of the Dead、1978年作品)の感想。

『ゾンビ』(原題 Dawn of the Dead、1978年作品)の感想。

 久しぶりに『ゾンビ』を見た。友人T君にもらったのを見て以来だから本当に久しぶりなのだけど、ひと目でわかった。彼にもらったのと同じディレクターズ・カット版だと。
 それはそれとして、感想にいこう。
 もちろん、盛大にネタバレがあるので注意してほしい。

 たぶん多くの人が思っているように、ゾンビ映画の描く災厄で本当に怖いのはゾンビそのものではない。ゾンビを前にして足を引きずり合う人間たちだ。作中でも人災だと繰り返し述べられているが、全くその通りと思う。
 
 ただ、主人公たちが籠城にショッピングセンターを選んだ事や、ゾンビたちが生前の執着や欲望に振り回されている事を「人間は欲望から逃げられない」って事だと考える点については、どうかとも思う。いや、たぶん監督さんはそういう描き方をしたのだと思うが、主人公たちを見ていると、到底そうは思えないのだ。
 
 最もいい例が紅一点のフラン嬢であろう。
 作品全体を見越した感想や批評はいくらでもあるので、ここでは彼女を中心に置いた感想を述べてみたい。
 もともと彼女は責任感や正義感の強い人間である。それは最初期、自分だけ逃げ出すのをためらったり、放送局の利益よりも人々の安全をとろうとする態度にも現れている。
 
 彼女は行動力もある。性格などは違うが、あの『エイリアン』のエレン・リプリー女史にも通じるものを感じてしまう。つまり、男任せにして判断を投げ捨てたり、低きに流れる事をよしとしない自立した性格とも言えるだろう。
 そして、彼女はショッピングセンターに籠城する事に最初から反対していた。
 作中から伺うに、彼女は徹頭徹尾反対のスタンスであり、男たちが少しでもここを引き払いそうな態度や状況を見せたら、即座に退去を促す発言をしていた。ショッピングセンターに居座って残された商品を食むとしう生活は、今は安全かもしれないが未来が全くない。当然、彼女は妊娠も最初から気づいていたろうから、その意味でも必死だったろう。
 でも、妊婦がひとりで逃げる事の危険さも賢い彼女は残念ながら理解していたし、恋人を見捨てるという考えも抱けなかった。その結果なのだろう。仕方なく結果として流されているが、彼女の態度をもって「彼女も他と同じく欲望に溺れた」と理解している人がいるとしたら、もう少し彼女をよく見たらどうかと申し上げたい。
(実際、もしフランが男だったとしたら、とっくの昔に一人でも逃げ出していたんじゃないかと思う)

 そんな彼女に対し、男たちは物欲におもいっきり溺れていく。
 個人的にいえば、無人のショッピングセンターなんていつまで電源等が確保できるかわからないわけで、ここにずっと留まるべきではないという意見に諸手を挙げて賛成だ。ここでは食料や衣料品などを補充し、完了したらさっさと燃料調達や今後の行程について意見を交わすべきなのだが、男どもは全員が物欲に踊らされた。もっとも人情家であり頭もまわり、いざという時に頼れそうなピーターですら踊らされたのだから仕方ないとも言えるが……。
 だがもちろん、こんな生活が続けられるわけがない。
 まず、当初からゾンビをなめきっていたロジャーが油断からゾンビに噛まれた。彼は本職のSWATでメンバー中最も戦闘力が高かったわけだが、その能力の高さゆえに注意力散漫だったりする事が当初から見えていた。彼の脱落はある意味仕方ない事だったが、一緒に組んでいた仲間はたまったもんではない。ピーターが忠告してもきかず、とうとう自業自得でやられてしまった。
 だが同時に、彼が噛まれた事件の際、完全にひとりだけ蚊帳の外に置かれていた事が、フランに強い危機感を抱かせる事にもなった。
 彼女は、今まで頼っていた恋人が頼りにならない事も何度か思い知らされた挙句の事であり、このままでは何も知らないままにゾンビに殺されてしまうと考えたのだろう。何も知らさずに放置される事に文句をいい、ひとりのメンバーとして扱えと宣言。さらに恋人だけが知っているヘリの操縦を自分にも教えろと要求した。
 実際、彼女のこの選択は正しかった。強盗団相手に彼氏は正気とも思えない戦いをはじめてしまい、盛大に自爆してしまったのだから。まさにタイミングとしてはギリギリだったろう。
 
 ちなみに四人の中で、父親的な人物はというと、間違いなくピーターだろう。
 彼はシニカルな対応をとる事もあるが、最も大人で安全・危険の嗅ぎ分けも優れている。ヘリにやってくる予定外の人物だったにもかかわらず、うとうと眠りかけた皆を起こして回ったり、実によい活躍をしている。
 そして何より、いわゆる金離れのよい人物でもある。
 強盗団がやってきた時、彼は速攻で「こりゃいかん」と判断しているのが態度から伺える。そして撤退を宣言している。既にこの時点で、状況次第では上を廃棄する事も決めていたろう。
 そしてここで、金離れの全くできないスティーブン(フランの彼氏)は盛大に自爆した。

 言うまでもないが、あれだけの武装した強盗団相手にたったひとりで立ち向かうなど無謀の極みである。冷静に考えなくても誰にでもわかる事だ。
 しかし強盗団を見つめるスティーブンの目線は明らかにもうおかしかった。そしてピーターが通信で何を言ってもガン無視、そしてとうとうピーターまで撃たれ始めたので彼もやむなく参戦を宣言するわけだが、そもそも多人数相手にガンガン攻めるわけがなく、彼がやったのは結果として撤退戦であった。
 これは当たり前である。
 ロジャーが元気でありツーマンセルで行動できたとしても、おそらくあの人数差では無理であり、少なくとも一時撤退を決めていただろう。
 さらにいうと、スティーブンがエレベータの上にとどまったのもおかしい。はじめて見た時、思わず「バカ野郎!なんでそんな危ないとこにとどまってるんだよ!」と言いそうになったのを思い出す。
 ちなみに彼は序盤からこういう無茶苦茶をやらかしている。機械室みたいなとこで発砲しているシーンだ。
 言うまでもないが、あのシーンはとんでもなく危険だ。

 わざわざ視界のきかない機械室の中でウロウロした事。
 跳弾しまくって危険な目にあっているのに、構わず何発も発砲している事。
 そしてもちろん、残弾など数えてなくて死にかけた。

 彼は、途中の寄り道で襲われた時の失敗から全く反省していないのがこの時点で見て取れる。
  
 強盗団との戦闘の経緯を「ピーターの裏切り」と考えている人がいるようだけど、これは単なるスレ違いであろう。そもそも勝ち目もないのに勝手に戦いはじめた時点でスティーブンの自業自得なのに、ピーターが裏切ったと考える人がよくわからない。彼は超人ではないし、途中でまともに敵と対峙してしまい撤退を余儀なくされているのだが、その場面を見ても、死んで助けに行けと言いたかったのだろうか?
 僕には、あの状況でもなおピーターが悪いと言い切る人の感覚は理解できそうにないです。申し訳ないが。
 
 さて、最後に話をフランに戻そう。
 最後、彼女がギリギリまで待ち続けたのはもちろんピーターが最後の最後に翻意してくれないかと思っていたからだと思う。
 それは報われた。
 そしてさらに、少なくとも三人の中では最も頼りがいのある者が残った事になる。
 
 この後、彼らがどのくらい引き伸びられたのかはわからない。
 だけど、彼らは二度と似たような状況になっても屋上にとどまりはしないから、少なくともその分だけは生き延びられたのではないだろうか。

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